第39回 伝統文化ポーラ賞 地域賞

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熟成した皮つき原毛の選別を行う
(平成28年6月)

  • 畑 義幸(はた よしゆき)
  • 昭和26年生まれ
  • 広島県
川尻筆の制作・伝承

書家を唸らせる筆と評される、畑義幸さんの川尻筆。筆の四大産地といわれる広島県呉市川尻町で、江戸時代からの歴史を持つ高級筆のひとつ。その特徴は、筆の毛を整える「練り混ぜ」(水で湿らせた毛を混ぜる高度な技術)により、筆の穂に墨などをしっかりと含み、独特な書きやすさを生み出すという。書道用のほか日本画、陶器や漆器の絵付けなど、川尻筆は制作現場で用いられる高品質な職人筆として信頼されてきたという歴史がある。

畑さんが祖父、父の跡を継いでこの世界に入ったのは18歳で、今年で半世紀を迎える。原毛選びから仕上げまでを一人で手掛け、「川尻筆の第一人者」といわれている。一本の川尻筆をつくるのに、細かい作業も入れると70工程を超えるといわれ、その一つ一つに畑さんの強いこだわりがある。なかでも難易度が高いとされる羊毛筆に注力してきた。原材料の羊毛は、中国に生息する野生の雄山羊の顎下から胸にかけての毛(細光鋒)を皮つきで入手し、数十年熟成させて質の良い毛を選ぶ。この毛の選別をする日は、天気の良い午前中で、南向きの部屋で作業にあたるという。

制作で一番難しいといわれているのが、「練り混ぜ」の工程。5段階の長さの毛をそれぞれ束にして水に浸して揉み、櫛を掛けて無駄毛を除去してヒラメという状態をつくる。ヒラメを台の上でハンサシという刃のない小刀で薄く横に広げ、端から畳むように丸め込む。この工程を数十回繰り返して均一に混毛し、切れ毛や逆毛などを徹底的に除去することによって独特の粘りが生まれ、書家が絶賛するきわめて高品質の筆になるという。

川尻筆のような高級筆をつくるには、長年の経験と勘が必要とされるが、畑さんは昭和57年に全国書道用品生産連盟技能賞を当時最年少の31歳で受賞した。また、平成10年には彼がつくった最高級羊毛筆に日本一の値がついて話題になった。

現在は、四代目となる息子の幸壯さんの後継者指導に加え、平成18年からは地元の呉市小学校で筆づくりの体験学習を毎年実施している。後継者の育成、地元小学校での筆づくり体験学習の実施など普及活動にも尽力しており、その功績が顕著なことから、今回の受賞となった。

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